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マリア保育研究所|

随想10 娑婆遊び










 

娑婆遊び









 
 

なんでも鑑定団「お宝発見」というテレビ番組ではたいていは自分の思っている評価とは違い低い評価額が笑いになって番組を盛り上げるストーリーになっている。ビジネス書によれば、他人からの評価は自分自身による評価の半分ぐらいに思っていた方がいいという。 作家の曽野綾子さんは「人間はそもそも正しく他人を理解することなどできないのである。めいめいの力量で見ているに過ぎない。だから自分が他人に正当に認められないことに耐えることも必要だ」という。

 
 

最近、私の車も評価の対象になった。私は車の運転が多分下手か注意欠陥があるのであろう。あちこちにへこみやすり傷を作っている。新車を買って最初の頃は保険できれいにしてもらうが、保険会社も損はしない仕組みになっている。保険を使えば次回から保険料が跳ね上がり、回収する仕組みになっている。だからそのうち傷がついてもほったらかしになる。結果としてあちこちに傷がたまり、ますます直す価値を感じなくなる。今まで数台乗ってきたが同じようなパターンである。車検が近くなった先月、カーブを小回りしすぎて左のドアを大きくこすった。ドアごと変えるのは馬鹿らしいし、どうしようかと迷った。車買い取の宣伝に乗せられみてもらったところ、鑑定士の評価額は20万円と別の会社は2万円だった。コロナで心理的な委縮もあり、新車に買い替えるか迷っていたが、車検の見積もりが15万円だった。私の予想よりはるかに安かった。車検後、心なしか走りが軽くなった気がした。これならあと5~6年は走るだろうと思った。2万円で売らなくてよかった。

 

小林一茶に「ことしから丸儲けぞよ娑婆遊び」という俳句があるが100万円ぐらい丸儲けした気分になった。なじんだ車も命を長らえた。きれいに越したことはないが私は車を足だと思っている。それぞれ評価の価値基準が違うのである。他人に評価してもらわなくても自分の価値基準で行けばいいのである。ドア部分は塗料を塗ってもらったが人目に目立つのは変わらない。見栄にこだわらねば、傷つけられても腹は立たないし、盗難の心配もなく精神的には気楽なものである。昼食時、職場のおばちゃんに「先生、助手席に女性を乗せられないどころか、その前に逃げてしまいますよ」と言われ、みんなで大笑いになった。老け込むにはまだ早すぎると思っているが「とほほ」である。まあ元からドライブを楽しむという趣味はなく、しゃなりしゃなりの女性はお呼びでないから残りの娑婆人生、力を抜いて小沢昭一流に「老いらくの花、咲いてよし、咲かぬもよし」くらいがいいに違いない。